舞台『刀剣乱舞』虚伝 燃ゆる本能寺(初演)感想

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まずパッと見て思ったのは、舞台が上下に分かれてるのは良いなということです。これによって場面転換に暗転を置く必要が減ります。暗転は客にとって気持ちの切り替え時間になりますが、同時に、現実に引き戻されてしまう時間にもなるので、なるべく減らして欲しいところなのです。ですがこの舞台、上下を分けて使えば、場所の変化、時間の変化を一発で表せます。また上下をひとつの場所と設定した場合、視線に縦の動きが加わって飽きません。これ劇場で殺陣を見た人、面白かっただろうなあ。

 

そして歌って踊るOPが始まりますが。これ申し訳ないんですが、私には余計でした。アニメのOPっぽい演出を意識してたんでしょうかね? 観客のほとんどのお嬢さんには違和感は無かったんでしょうけど、私には違和感がありました。私がそれを見るためにはスイッチの切り替えが必要なんです。舞って歌う世界と、演じて生きる世界は別モノなんです。スマンがいりません。『劇』を見せてくれ。

 

で、元々、不動行光の設定は難しいものでした。『酒気帯びの子供』というのは、リアル世界には存在しません。……いや、厳密には居ますし、私は荒れた家庭で育ったせいで酒を好む、不動くらいの子供と仲が良かったことが有るんですが、まあ普通は居ません。つまり、不動は、この世に無いものを演技しなければならない。

 

モデルが居ない存在です。不動は大げさに言えばファンタジー的なキャラ付けなんです。想像上にしか居ない存在です。ここをどう演技するのかは、観劇前から気になってました。結果、ちと残念でしたねえ。不動がときどき中年男性に見えました。子供属性が消えてたと思います。もっとテンションがひたすら高い、猿みたいな子供で良かったんじゃないでしょうか。

 

この不動の演技が、演出家の指示によるものか、役者さんご本人の意思かは不明なんですが、酔っぱらいにもいろいろいます。子供のようにかわいらしくなる酔っぱらいも居ます。あんな、いかにもドラマに出てくるお父さんみたいな酔いかたのほうが、むしろ数的には少ないかもしれません。もっと酒場に出かけて、酔っぱらいのサンプルを集めてみるべきだったんじゃないかなあ。

 

このちぐはぐさのせいか、笑いが取れそうなところを逃してます。勿体ないですねえ。最初の山姥切との対面シーンとか、もっと笑いを取れたと思います。また客を笑わせることができたら、客はもっとグッと不動を好きになり、感情を移入させ、彼の苦悩を理解したと思います。これが得られなかった。『かわいい酔っぱらいの不動くんに、客として感情を乗っける』ということができなかった。これが勿体なかったです。

 

演劇というのは、観客の感情のツボをどれだけ刺激するかが勝負ってところがあります。おはぎの宴は笑いましたが、理想を言うなら、あのアドリブ的な間を、もっともっと演技として自在に使いこなしてほしかったです。できるシーンは多くありました。だから笑いに関しては残念です。

 

けど、悲しみの部分は良かったです。パンチ食らって自虐セリフを吐く長谷部は哀れだったし、近侍職がうまくいかなくてションボリする山姥切は可哀想でした。見てて心がふっと動きました。この感覚が気持ち良いんです。それまでの私の視点は、その世界を上から見守る神の位置だったのが、地上に降りて人物たちに寄り添う天使の位置になれます。客は感情が動けば、客席と舞台の距離をぐっと縮めます。

 

カメラワークも何もない芝居の世界は、テーマも世界観もすべて役者が説明します。自然、セリフはクドくなってしまうのです。このクドさに注目すると、いろんなことが見えてくるんですが、最初は良かったですねえ。脚本における自然なセリフの書き方。それを語る三日月。山姥切をはげます三日月の演技は、とても自然に納得できました。クドさは感じませんでした。

 

上記、三日月と山姥切が語りあうシーンで充分だったので、のちに山姥切が不動のまえで、三日月のセリフを思い出すのはクドく感じました。ましてや音声まで再生されたら、ちょっと失笑するような感じがして、クドかったです。ここは、ハッと思い出したように月を見上げる、程度で良かったんじゃないかしら? ……って言っても、演劇でこのクドさをぜんぶ消すのは無理ですからねえ。欠けてるよりはクドいほうがマシですし。このへん、ほんと難しい。むしろこの芝居は良いほうです。まだ、さらっとしてる。

 

で、歴史上の出来事を、人間役の人らが演じつつ説明してくれて、それに男士たちが絡んでいくという作りが、本当に上手いと感じました。知らない人には分かりやすく、知ってる人には「ど、どうなるの?」というワクワク感がわく。この構図を思いついてくれて有難うという気分です。

 

薬研と宗三のやりとりも、まあクドいといえばクドいんですが、その直後に全員集合で総括シーンが始まりましからね。これで払拭される。そして……蘭丸にすべて持っていかれるw あああ面白い! 蘭丸のあまりの悲しさに、あたかも刀剣男士が悪役のような立場に! 構図逆転が面白い!

 

殺陣の連続はもう言うまでもない。見ているこっちの息が詰まる。よくあんなふうに動けるな! 私があんな風に動いたら動悸・息切れで死ぬな! で、やっぱり不動がもったいないです。初期に好感をつかめなかったことが響いてます。彼の熱演にうるっとは来るんだけど、冷静な自分が残ってしまいます。不動は、私という客に、心地よいかんじを、ちっとも与えてくれないなあと。いきなり悲劇かよと。

 

ていうかまた殺陣か! もうずっと殺陣じゃん! フルマラソンかよ! 死ぬ、見てるこっちの呼吸が死ぬ、気持ちいいけど死ぬ! ……と、殺されそうな気分になりつつ、歴史物語の終わりを見つめるのです。『ネタバレ・蘭丸は死ぬ。信長は死ぬ。光秀も死ぬ』が、深い深い余韻となってホッと心が静まっていきます。

 

カーテンコールは省きます。いやー面白かった。とてもとても安定した物語だった。50モヤシーも払った甲斐はありました。あと間違えて低画質版を買ってしまって泣きそうだったがもういいです。満足満足。みな男士として素晴らしかった。アンサンブルもなにげにカッケーしな! あと個人的に、一番男士っぽい賞は小夜左文字。