映画「モアナと伝説の海」感想

 ストーリーは王道です。
 昔ヒーローがいらんことをしたらしいのです。
 緑の島の女神から、心をあらわす石を盗み出しました。
 おかげで世界には闇が発生し、このままだと少しづつ絶滅していきます。
 しかし1000年後、モアナという8歳の少女が、女ヒーローとして選ばれます
 モアナの仕事は、旧ヒーローを連れて、女神に詫びを入れに行くことです。
 
 ストーリーラインは、ロードオブザリングに似てますね。目的は悪を倒すことではない。特殊な場所に行き、宝を手放して、世界の調和を取り戻すことです。単純な勧善懲悪ではない。だからこそ、主人公が少女であることが生きる。
 彼女は戦い方は、倒すのではなく、切り抜けるやり方です。すばしっこい体と、目的を見失わない情熱と、怖い道を突き進む勇気と、弱いものへの優しさで戦います。バトル系ヒロインではあるものの、グーパンチとかは使わないので、とても純粋で可愛らしい。

 また、駄目なヒーローのマウイも良いと思います。お相撲さんのようなムチムチとした体や、しわの寄ったゴリ系の顔も、なんとなく、太平洋の南側にはこういう男性が居そうだ! と思わさせられます。神に近い能力を持っているのに、とても強いのに、非常に人間的です。
 キャラとして立っているのはこの二人だけですので、あとはただひたすら、こいつらに感情移入しつつ、海を渡っていけば良いかんじでした。

 

 歴史かなんかの授業で習ったのは、人類ってのは、アフリカで生まれて、そこから大陸を歩いたり、島々を船で渡ったりして、世界中に散っていったらしいですね。
 知識としてはそんなもんです。面白くもなんともない。テストにも、試験にも出ない情報には、なんの価値も感じず、また魅力も無いものだと思います。


 しかしモアナを見ると、情報が命を持ちます。
 彼らの祖先は、丸太をヤシ紐でくくった船をつくり、そこに家族を乗せて、海に乗り出したに違いないのです。空と海のあわさる彼方の地平線に目を据え、太陽の日差しを半裸の体で受け止めて、強い潮風に髪と衣服をなぶらせながら、どんどんと進んでいったに違いないのです。未知への恐怖は、勇気と、まだ見ぬ地へとたどり着く希望への、わくわくとした気持ちで乗り越えたに違いないのです。
 そういう祖先を持つ彼らを格好いいと思い、また現在のハワイ人や、ニュージーランド人は、彼らの子孫に違いないと思い、超うらやましいと思う。描写が正確かどうかは知りません。本当の事かどうかも分かりません。しかし映画というものは、正確かどうかよりも、正確だと思い込まさせられるかどうかが大切だと思います。それが映画のリアリティです。これが本当の出来事だと、洗脳してもらえるのです。多大な快感とともに。


 というわけで、モアナはたしかに、美しい海の描写がたくさん出て来ます。でもそれは、海の中の美しさではありません。海の上の美しさです。そこを進んでいく人間の美しさを唄っています。
 
 いや日本でも、沖縄人や九州人は、彼らのように海を渡ったのかもしれませんね。いいなあ。ちょっとくらい私にもその血が流れてないかなあ。